従来、介護は女性(嫁、娘、妻)が担うものとされていた社会の風潮は、2000年の介護保険制度の導入で担い手としての介護労働者が定着し、「介護の社会化」が一定程度実現した。
介護保険の利用者は2035年にピークを迎えるといわれ、「高齢独居及び老夫婦世帯」と「認知症高齢者」の増加が避けられない状況である。この間、男性介護者は約3割に達したが、男性の「介護離職」が増えてきている中で、夫・息子の介護が孤立しがちという指摘もある。
介護保険法は2006年の改正で「人間として尊厳ある介護」の文言が盛り込まれたが、これが保障される介護現場の実態となっているだろうか?
2011年の法改正や、2012年の介護報酬改定に関する厚生労働省の審議会などでは、要支援や要介護1・2など軽度の要介護者への介護保険からの除外や生活援助サービス給付の縮小などが審議された。
訪問介護の生活援助サービスは、2006年の第2回報酬改定時に介護報酬対象サービス時間をそれまでの2時間から1時間半に、(2009年の第3回には1時間に、そして)2012年の第4回改定では45分へと削減して行く方向になっている。
社会保障制度改革国民会議は、2013年4月の「論点整理」で、「軽度の高齢者は、見守り・配食等の生活支援が中心であり、要支援者の介護給付範囲を適正化すべき。具体的には、保険給付から地域包括ケア計画と一体となった事業に移行し、ボランティア・NPOなどを活用し、柔軟・効率的に実施すべき」と介護の軽度認定者を介護保険サービスから切り離す方向を示した。そして、8月の最終報告では、「予防給付の見直し」(=軽度者へのサービスの切り捨て)「一定以上の所得のある利用者負担は、引き上げる」とした。その制度見直しは2015年度を目途とするプログラム法案が審議中である。
介護保険制度発足以来13年、当事者(=介護保険認定者、介護経験者、介護保険被保険者、介護労働従事者)それぞれの立場の、現状認識と問題点を浮き彫りにし、当事者の意見を今後の見直しの方向に反映することを目的に調査を実施した。
「人間としての尊厳ある介護」は、生活援助サービスの拡充が不可欠であり、生活援助サービスの切り捨ては、これに逆行する。
その生活援助軽視の考え方が介護保険におけるホームヘルパーの介護労働の価値を正当に評価しないという見方にも繋がっている。それは、介護労働者の賃金が一般労働者に比べて年間100万円以上も下回っている低賃金状況からも明らかである。
これらを踏まえ、さらに男女共同参画の視点に立って「高齢社会をよくする女性の会・大阪」では、設立20周年の記念事業として、「介護保険・生活援助に関するアンケート調査」を利用者サイド、サービス提供者サイドの両面から実施した(現在、分析作業中)。
これは、介護保険制度が導入されて1年半後(2001.11〜2002.2)に当会が実施した、「ホームヘルプサービス利用者調査」「ホームヘルパー就労実態調査」などの調査結果との比較もできる形となっており、介護保険制度導入後13年間の推移を見るうえでも興味深いものとなっている。
より当事者の声をきめ細かく集約できるよう、調査対象を4つのグループに区分した。その上で、生活援助に関する考え方についての問を各グループ共通として、グループごとに結果を検証することとした。区分は以下の通り。
当事者の声を把握する方法として、150人の会員が身近な家族・友人・知人・地域でのつながりなどを通じて、調査票を配布・回収することで、会員も当事者としての動きをする。
対 象 | 配 布 | 回 収 | 回収率 |
(1)介護認定者 | 783 | 347 | 55.1 % |
(2)介護経験者 | 760 | 391 | |
(3)介護被保険者 | 1,261 | 846 | |
(4)介護従事者 | 1,247 | 648 | |
合 計 | 4,051 | 2,232 |
コミュニケーション・会話 | 会話の減少、利用者の思いを十分聞けない体調確認も 駆け足でなど身体状況の把握が不十分になる」など |
138 件 |
掃 除 | 毎回が隔週に、掃除箇所の減、丁寧にできないなど | 128 件 |
洗 濯 | 短縮メニューの活用、回数減、清潔保持に問題など | 82 件 |
買 物 | 回数減、好みや安さよりは近くで購入を優先など | 98 件 |
調 理 | 品数減や簡単メニューになど | 105 件 |
ごみの分別・ゴミ出し | できなくなった、できる範囲でなど | 41 件 |
サービスの受け手・担い手双方にとって、生活援助サービスの作業にともなう「コミュニケーション・会話」は、人と人の関係で成り立つ介護の仕事の専門性を示すもので、無視できない生活援助の要素である。
まだ十分な分析ができていない段階ではあるが、当事者の声は、社会保障審議会介護保険部会の審議の中で示されている「生活援助サービスを市町村サービスに移行」の方向性とは違うものであると言える。
市町村への移行財源は、介護保険の要支援サービス給付金4,100億円を移行すると言われているが、地域支援事業との関連でサービスの質が著しく変わる。その質と財源の保証なしに要支援の市町村への移行を行うことはできないと考える。