「介護保険・生活援助に関するアンケート調査」についての中間報告(速報版)

(本調査は「大阪市市民活動助成事業等補助金(大阪市男女共同参画施策推進基金事業)」を受けています)
2013年11月9日
高齢社会をよくする女性の会・大阪
代表 小林 敏子
  1. この調査の特徴と問題意識
    • 介護を取り巻く状況の客観変化

       従来、介護は女性(嫁、娘、妻)が担うものとされていた社会の風潮は、2000年の介護保険制度の導入で担い手としての介護労働者が定着し、「介護の社会化」が一定程度実現した。

       介護保険の利用者は2035年にピークを迎えるといわれ、「高齢独居及び老夫婦世帯」と「認知症高齢者」の増加が避けられない状況である。この間、男性介護者は約3割に達したが、男性の「介護離職」が増えてきている中で、夫・息子の介護が孤立しがちという指摘もある。

       介護保険法は2006年の改正で「人間として尊厳ある介護」の文言が盛り込まれたが、これが保障される介護現場の実態となっているだろうか?

       2011年の法改正や、2012年の介護報酬改定に関する厚生労働省の審議会などでは、要支援や要介護1・2など軽度の要介護者への介護保険からの除外や生活援助サービス給付の縮小などが審議された。

       訪問介護の生活援助サービスは、2006年の第2回報酬改定時に介護報酬対象サービス時間をそれまでの2時間から1時間半に、(2009年の第3回には1時間に、そして)2012年の第4回改定では45分へと削減して行く方向になっている。

       社会保障制度改革国民会議は、2013年4月の「論点整理」で、「軽度の高齢者は、見守り・配食等の生活支援が中心であり、要支援者の介護給付範囲を適正化すべき。具体的には、保険給付から地域包括ケア計画と一体となった事業に移行し、ボランティア・NPOなどを活用し、柔軟・効率的に実施すべき」と介護の軽度認定者を介護保険サービスから切り離す方向を示した。そして、8月の最終報告では、「予防給付の見直し」(=軽度者へのサービスの切り捨て)「一定以上の所得のある利用者負担は、引き上げる」とした。その制度見直しは2015年度を目途とするプログラム法案が審議中である。

       介護保険制度発足以来13年、当事者(=介護保険認定者、介護経験者、介護保険被保険者、介護労働従事者)それぞれの立場の、現状認識と問題点を浮き彫りにし、当事者の意見を今後の見直しの方向に反映することを目的に調査を実施した。

       「人間としての尊厳ある介護」は、生活援助サービスの拡充が不可欠であり、生活援助サービスの切り捨ては、これに逆行する。

       その生活援助軽視の考え方が介護保険におけるホームヘルパーの介護労働の価値を正当に評価しないという見方にも繋がっている。それは、介護労働者の賃金が一般労働者に比べて年間100万円以上も下回っている低賃金状況からも明らかである。

       これらを踏まえ、さらに男女共同参画の視点に立って「高齢社会をよくする女性の会・大阪」では、設立20周年の記念事業として、「介護保険・生活援助に関するアンケート調査」を利用者サイド、サービス提供者サイドの両面から実施した(現在、分析作業中)。

       これは、介護保険制度が導入されて1年半後(2001.11〜2002.2)に当会が実施した、「ホームヘルプサービス利用者調査」「ホームヘルパー就労実態調査」などの調査結果との比較もできる形となっており、介護保険制度導入後13年間の推移を見るうえでも興味深いものとなっている。

  2. 調査票設計の基本的考え方と調査票配布・回収・集計にあたっての基本
    • 調査票設計の基本的考え方

       より当事者の声をきめ細かく集約できるよう、調査対象を4つのグループに区分した。その上で、生活援助に関する考え方についての問を各グループ共通として、グループごとに結果を検証することとした。区分は以下の通り。

      1. 介護認定者(介護保険の要支援や要介護などの認定を受けている人)
      2. 介護経験者(介護を経験している人・したことのある人:介護保険制度導入以前を含む)
      3. 介護被保険者(40歳以上の介護保険被保険者で介護した、介護された経験のない方)
      4. 介護従事者(介護保険制度のもとで働いている介護サービス従事者)
    • 調査票配布・回収・集計

      当事者の声を把握する方法として、150人の会員が身近な家族・友人・知人・地域でのつながりなどを通じて、調査票を配布・回収することで、会員も当事者としての動きをする。

    • 調査票の配布回収期間:2013年5月〜6月
    • 配布枚数と回収枚数
      対 象 配 布 回 収 回収率
      (1)介護認定者 783 347 55.1 %
      (2)介護経験者 760 391
      (3)介護被保険者 1,261 846
      (4)介護従事者 1,247 648
      合 計 4,051 2,232
    • 回収した2,232通の調査票は、会員のボランティアで入力し、集計・分析作業を実施中である。
      報告書は2014年3月までに刊行予定で作業を進めているが、中間的な集計結果としての「生活援助サービス」関係のポイントを報告します。
  3. プロフィールと介護に関する状況
    1. 介護認定者
      • 6割が80歳以上で、16%が90歳以上。67%が女性。
      • 単身=「私だけ」住まいが、47.6%。 「配偶者」と住んでいるが、31.7%
        8割が単身又は夫婦二人。
      • 介護認定度合は、軽度者が多く、9割が介護保険サービスを利用している。
      • 利用しているサービスは、訪問介護、通所介護、福祉用具利用の順
    2. 介護経験者
      • 50歳代から74歳までに集中しているが、80歳台も約一割。女性が約8割。
      • 介護対象者は、圧倒的に父母が5割、次いで義父・母、配偶者。うち同居が6割。
      • 在宅介護期間は、5.7年。76%が介護保険サービスを利用。
    3. 介護被保険者
      • 40歳代から80歳代まで、ほぼまんべんなく分布しており、7割が女性。
      • 64.5%が配偶者と同居しており、30.6%が単身の子どもと同居、次いで一人暮らしが
        19.1%
      • 働いている人と働いていない人は半々で、正規と非正規が半々。
    4. 介護従事者
      • 50歳代、40歳代、60歳代がほぼ同数、次いで30歳代で、83%が女性。
      • 職種は訪問介護員(ホームヘルパー)、介護職員(施設等)、介護支援専門員(ケアマネジャー)
        サービス提供責任者、介護職員(通所施設等)と続く。
      • 介護従事経験は、10年〜15年が33%で、平均は8.7年。
      • 45%が正規職員で、非正規(パート)が21%、登録ヘルパーが20.2%。
      • 働いている事業所(職場)で訪問介護の生活援助サービスが2012年以降変更されたのは、
        「短縮」53.5%、「事業所は基本的に短縮したが、ケースバイケース」が30.9%、従来
        どおりは15.6%。
  4. 生活援助についての意見
    • 「生活援助について以下のような意見が聞かれますが、どのように思いますか」という同一質問を調査対象(1)〜(4)のすべてに行った。その回答は、
      1. 「介護度の重い軽いを問わず必要なサービスは提供されるのがよい」に対しては、「そう思う」と答えた人が調査対象(1)(2)は70%を超え、(3)69%、(4)は61%であった。
      2. 「生活援助は要介護状態の重度化を防ぎ、日常生活の継続が可能になっている人が多いから介護保険で供給するのがよい」に対しては「そう思う」が調査対象(1)〜(4)とも最も多く、(2)経験者が68%で最大であった。
      3. 「訪問介護サービスは、身体介護と生活援助を一体として考える方がよい」に対しては、「そう思う」が(1)〜(4)いずれも最も多い。
      4. 「軽度者への生活援助は介護保険ではなく、市町村独自のサービスを利用するのがよい」に対しては、(2)介護経験者は「そう思わない」が最も多かったが、(1)(3)(4)は、「どちらとも言えない」の方が多かった。
      5. 「軽度者への生活援助は介護保険ではなく、民間サービスや地域の助け合いシステムを利用するのがよい」に対しては、(1)(2)(3)は「そう思わない」が多いが、(4)従事者は「どちらとも言えない」が多かった。
      6. 「生活援助の部分を友人・知人・近隣・ボランティアなどの善意に頼るのはおかしい」に対しては、(1)(2)(3)は「そう思う」が多いが、(4)従事者は「そう思う」「そう思わない」「どちらとも言えない」が拮抗。
  5. 介護認定者の「生活援助サービス」利用
    • 介護認定者が利用している「生活援助サービス」は、「掃除」が圧倒的。次いで「買い物の依頼」「ゴミだし」「調理の依頼」「ベッドメイク」「洗濯・乾燥」と続く。
    • 介護認定者への質問「生活援助サービス時間短縮による影響」は、「特に影響なし」との回答が半数あるが、あとの半数、つまり何らかの影響があると答えている者のうち、「掃除・洗濯が行き届かなくなった」「料理のメニューが減った」などのサービス実務の質の低下への影響とともに、「ヘルパーさんが忙しそうで会話が減った」といった回答が53件あった。認定者にとって掃除や調理は、会話と並行しながら行われている場合が多く、こうした実務への影響は同時に会話の不足にもつながることが見られる。
  6. 介護従事者の生活援助サービス
    • 介護従事者への、「短縮された生活援助サービスで具体的にどのような内容を削りましたか」「具体的に」の回答記述内容の概要。
      コミュニケーション・会話 会話の減少、利用者の思いを十分聞けない体調確認も
      駆け足でなど身体状況の把握が不十分になる」など
      138 件
      掃  除 毎回が隔週に、掃除箇所の減、丁寧にできないなど 128 件
      洗  濯 短縮メニューの活用、回数減、清潔保持に問題など 82 件
      買  物 回数減、好みや安さよりは近くで購入を優先など 98 件
      調  理 品数減や簡単メニューになど 105 件
      ごみの分別・ゴミ出し できなくなった、できる範囲でなど 41 件
      上記、短縮された生活援助サービスで、特に影響が大きかったと思われるもの
  7. 介護従事者に対する「生活援助サービスの1回あたりの時間短縮による利用者さんへの影響」に関する質問では、「不安感の増大」が193件と圧倒的に多くなっている。これについては、特に影響が大きかったものとして「コミュニケーション・会話」が最多であったという結果と密接に関連していると考えられる。つまり、従事者は、『サービス時間短縮 ⇒ コミュニケーション低下 ⇒ 利用者の不安増大』ということが生じていると考えている、と推測される。

     サービスの受け手・担い手双方にとって、生活援助サービスの作業にともなう「コミュニケーション・会話」は、人と人の関係で成り立つ介護の仕事の専門性を示すもので、無視できない生活援助の要素である。

  8. 今後の課題

     まだ十分な分析ができていない段階ではあるが、当事者の声は、社会保障審議会介護保険部会の審議の中で示されている「生活援助サービスを市町村サービスに移行」の方向性とは違うものであると言える。

     市町村への移行財源は、介護保険の要支援サービス給付金4,100億円を移行すると言われているが、地域支援事業との関連でサービスの質が著しく変わる。その質と財源の保証なしに要支援の市町村への移行を行うことはできないと考える。


※井上由美子さん:NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事・城西国際大学教授