松山大会での決議「高齢者のICT実態調査」からの要望書提出
ご報告とお礼

 コロナ禍の影響もあって、2年越しの懸案となった「中高年女性のデジタル行政への要望書」を3月8日、3月16日、関係官庁に届けることが出来ました。

 一昨年秋、高齢者のみに調査をお願いし、あっという間に一千票を越す回答が寄せられ、注目を浴びた「高齢者ICT実態調査」は、即、集計と分析にかかり、同時にオンライン併用の勉強会を3回行い、昨年の全国大会松山大会では、高齢者とデジタル問題の分科会を設けて、「要望書」提出を大会で決議いたしました。

 提出先は、デジタル庁・総務省・厚労省、一足遅れて内閣府男女共同参画局でした。高齢者がデジタル行政から一人も取り残されない政策を強く要望し、高齢者も学んでいくことを約束しました。要望書全文(308KB)を掲載しますのでご覧ください。

理事長 樋口恵子

「高齢者服薬調査」の報告
NPO法人 高齢社会をよくする女性の会
理事長 樋口 恵子

「高齢者服薬調査」の報告

  本会の「高齢者の服薬に関する実態調査」は、討ち入りシンポで単純集計のみの中間報告を行いましたが、その後クロス集計を加えたデータを、12月22日に開催された第5回「高齢者医薬品適正使用検討会」の席上、樋口理事長、石田理事より発表し、大きな感嘆と賛辞が寄せられました。
 高齢当事者の服薬に関する5000票を超すような大規模調査は、今までになかったことと、見えた実態・結果は真摯に受け止めていただけました。
 引き続き厚生記者会にて記者会見を行い、マスコミ関係にも発表させていただきました。

 当日の資料データをご覧になりたい方は下記へ

高齢者の服薬に関する現状と意識
※無断転載は禁じます。
”引用は©高齢社会をよくする女性の会と明記ください。”



  写真はこちらをご覧ください





2017年 1 月 30 日
厚生労働大臣
   塩崎恭久 様
NPO法人 高齢社会をよくする女性の会
理事長 樋口 恵子

「認知症の人とともに生きる社会に向けての研究会」 要望書を提出

 昨年3月1日認知症鉄道事故賠償裁判に関する最高裁判決を受けて、法律の専門家、研究家、活動グループと研究会を立ち上げ、研究討議を重ねてきました。
 1月30日、認知症になっても安心して生きられる、行動を束縛されない社会づくりへの要望書をまとめて、塩崎恭久厚生労働大臣に面会・提出してまいりました。

 要望書内容こちらをご覧ください

塩崎大臣要望書目次
提出用 要望項目 塩崎恭久大臣
提出用要望書塩崎恭久大臣


  写真はこちらをご覧ください





「人生最期の医療に関する調査」結果をご報告します。

回答者数 4,744人 調査時期は、昨年12月末から2月25日でしたが、全国10歳代〜90歳代の女性3,485人、男性1,259人から ご回答をお寄せいただきました。ありがとうございました。心からお礼申し上げます。

「会員の皆さまへ
この度は年末年始のご多用中、深刻な問題に関するアンケート調査に
ご協力いただき、まことにありがとうございました。
おかげさまで多数のお答えをいただき、以下のようにまとめました。
さすが本会の底力。ありがとうございました。
2013年3月10日 理事長 樋口恵子」

要望書提出

消費者庁長官室で要望書提出の一行 左から、京都の池田さん、高嶋さん、松村理事、中西理事、袖井副理事長、樋口理事長。一番右は阿南 久長官です。
消費者庁長官室で要望書提出の一行
左から、京都の池田さん、高嶋さん、松村理事、
中西理事、袖井副理事長、樋口理事長。
一番右は阿南 久長官です。

9月27日に個人情報保護法の運用に関する要望書を提出しました。
提出先は松原仁内閣府特命担当大臣、小宮山洋子厚生労働大臣、 阿南 久消費者庁長官、厚生労働省の原勝則老健局長、原徳壽医政局長です。
個人情報保護法の運用における過剰反応が、地域の支えあいに支障をきたしている現実にぶつかった京都のグループ会員が、 問題として取り上げ、京都でも本会でも勉強会を重ね、今回の要望書提出に至りました。

提出した要望書はこちらをご覧ください


樋口理事長から阿南長官へ「個人情報保護法の運用に関する要望書」を提出。現在、理事長は消費者庁参与として長官とはかかわりが深い。
樋口理事長から阿南長官へ
「個人情報保護法の運用に関する要望書」を提出。
現在、理事長は消費者庁参与として
長官とはかかわりが深い。
医療の現場で、保護法の過剰反応が多々見られたことから厚生労働省の原徳壽医政局長に要望書を提出
医療の現場で、保護法の過剰反応が
多々見られたことから
厚生労働省の原徳壽医政局長に
要望書を提出
なんと局長就任11日目に、全国大会in堺大会にご出講いただいた原勝則老健局長にも、要望書を受け取っていただいた。樋口理事長の後方は松村理事と河野事務局
なんと局長就任11日目に、全国大会in堺大会に
ご出講いただいた原勝則老健局長にも、
要望書を受け取っていただいた。
樋口理事長の後方は松村理事と河野事務局
阿南長官に内容を説明する要望書提出の一行です
阿南長官に内容を説明する
要望書提出の一行です

2010 年 4 月 26 日
厚生労働大臣
   長 妻 昭 様
NPO法人 高齢社会をよくする女性の会
理事長 樋口 恵子

 介護保険は栄養失調→日本の老いを支える新たな覚悟が必要です

 介護保険制度施行10年、制度は普及し利用も拡大・定着しているものの、2度にわたる改定を経て利用者・関係者から不満の声が上がっています。基本的に高齢化のスピードに追いついていません。

 「高齢社会をよくする女性の会」は昨年11月、47都道府県の会員と会員周辺の介護保険関係者を対象に、各地域における介護保険制度の実態と問題点について調査を行いました。

 「頼りになる愛される介護保険」そして「わかりやすく使いやすい介護保険」にするために、調査結果を踏まえ次の政策を実現するよう要望します。

こうすればよくなる介護保険

1 要介護認定は必要ですが、見直しはもっと必要です

こんな意見がありました

  1. 誰のための認定調査か
    家  族:
    入退院を繰り返しているが要支援1。誰のための認定調査か。
  2. 経費と時間と手間がかかりすぎる
    事業者:
    要介護認定は大変な金と時間と手間がかかりすぎる。
  3. 要介護認定は必要
    家族・事業者:
    介護専門職だけで介護認定を行うことは公平性が心配。
  4. 要介護認定は止めて、担当者会議などでチェックを
    家  族:
    正直、善意、客観的に判断する人による担当者会議ならば大賛成。

こんな制度に見直しを

  1. 介護度は3段階にわけ、サービス内容は当事者に任せる。
  2. 将来的には、地域包括支援センターなど公的な責任を持てる機関が担うことが望ましい。
  3. 権限と責任を有する専門家の養成が必要。

2 支給限度額を上げる ― 在宅生活継続のために

こんな意見がありました

  1. 支給限度額は上げたほうがよい
    家  族:
    支給限度額内では十分な介護ができない。家族の負担が増すばかり。
    事業者:
    要介護5の方は1日3回の食事や排泄の介助を依頼するだけで限度額を超えてしまう。必要がある場合は、上げてほしい。
    市議会議員:
    もう少し利用すればよくなる場合でも限度額を超えると全額自己負担のため利用を諦めて状況が悪くなることが多い。
    民生委員、医師、事業者、家族:支給限度額内では一人暮らしは無理。
  2. 支給限度額を上げると財源がパンクする。低負担高福祉はありえない。

こんな制度に見直しを

  • 在宅生活を継続するために 支給限度額を上げる。

3 生活援助は在宅の命綱

こんな意見がありました

  • 介護保険から外してはならない
    利用者:
    生活援助がなければ他に人手を考えねばならない。外さないでほしい。同居家族がいても生活援助は受けられて当然(働く家族・老老家族)。
    事業者、介護職員、元教員、医師、民生委員:
    • 一人暮らしの高齢者にとっては、生活援助は居宅で暮らせる命綱。
    • 少しの支えがあれば、わが家で生活できる。外してはならない。
    • 在宅サービスを充実させることは特養待機者の減少につながる。
  • 公費負担の場合の問題点
    市議会議員、民生委員、事業者、成年後見人:
    • サービス利用に行政のブレーキがかからないか。
    • 一部の人しか受けられないサービスとなる危険がある。
    • 地域差が生じる恐れがある
  • 生活援助は公費負担としたほうがよい。
    看護師、ケアマネジャー:
    便利だから使う人がいる。

こんな制度に見直しを

  1. 生活援助は介護保険から外してはならない。
  2. 介護保険、おひとりさま仕様を一つの柱に。
  3. 介護保険、働く家族仕様を一つの柱に。

4 財源について私たちは こう考えます

こんな意見がありました こんな制度に見直しを

  1. 公費の割合を増やす。現在の5割をまず6割に。
  2. 介護保険の歳出入をわかりやすく公表し、予算の無駄を排除する。
  3. 消費税率を含め、税制など財源のあり方を検討する。
  4. 介護貧乏・介護破産ということばが生まれている。保険料天引き、利用料払えず、高負担低福祉の低所得者層へ配慮を。

5 終の棲家で高齢者の尊厳を保つ

こんな意見がありました

  1. 施設か在宅か選択できるようどちらも供給の拡大が必要。
  2. 施設の住宅化、在宅の施設並み安心化を。
  3. 施設のあり方を地域の気候風土に合わせて地方に任せる。
  4. 高齢者が火災死亡事故などの犠牲にならないよう、住みなれた地域で安全確保。

こんな制度に見直しを

  1. すべての介護施設で、一人当たり居住空間を住生活基本法に定める25uに。
  2. 特別養護老人ホームの多床化等は時代に逆行。高齢者の人権として終の棲家の確立が必要。
  3. 都道府県に適合高齢者専用賃貸住宅の届出をせず介護サービスを提供する高齢者専用賃貸住宅については、有料老人ホームの届出をするか、特定施設として指定事業者になるよう指導を。
  4. すべての都市計画で高齢者住宅を核とした人生100年型仕様を。
  5. 施設での人員配置基準の見直しを。入居者は重介護化しているのに、介護職員配置は昔のまま。コンクリートから人へ、の「人」はまさにここにあり。
  6. グループホームを低所得者層が利用できる価格設定に。

6 家族への支援の充実

こんな意見がありました

  1. ショートステイの確保が大変。ショートが定期的に使えれば在宅が長期化する。
  2. 認知症でも在宅できる実質的な家族支援。
  3. 家族が休めるレスパイトケア(息抜き休暇)の確保。
  4. 介護家族の健康保持の機会提供(検診・通院時の一時預かりなど)。
  5. 介護家族当事者グループの支援。
  6. 介護家族の各種相談、研修、介護終了後の就労機会の提供。
  7. 現金給付には反対の声が多い。

こんな制度に見直しを

  1. 病院への付き添い、買い物への付き添いが可能な介護保険に。
  2. 家族介護者が就労継続できるよう、介護休業制度の抜本的見直し。
    労働部門との提携により「介護と仕事の両立」を。
  3. 家族が倒れたら待ったなしで代替え出来る救急制度を。
  4. デイサービスセンターを利用したショートステイの拡充。
    認知症の人には慣れた場所や職員が何より。

7 介護人材 ― 待遇改善して質と量を確保

こんな意見がありました

  1. 介護に直接かかわる人に賃金アップ。
  2. 加算でなく全体引き上げへ。
  3. 勤労者平均年収450万円を目標に。
  4. 介護人材賃金引き上げの長期的保障。
  5. 研修・資格取得に公費を。
    介護職への参入経路の多様化(中高年層・主婦層など)の確保。

こんな制度に見直しを

  1. 介護職員への賃金アップが、介護報酬にはね返らない仕組みを。
  2. 介護保険外で老いを支える人材も必要。
    地域で助け合い要員を確保するための方法と試算を
  • そのほか多くの意見・提言がありました。
    特養ホーム待機者解決策:
    余力のある特養に自前で少数の増室建設を認めてほしい。全国集めればかなりの数になる。(特養ホーム経営者)
    手続きをシンプルに:
    書類の数を減らすこと、内容を分かりやすくすること。要支援←→要介護の変更の書類は最低限に。
    当事者の学習も必要:
    一人暮らし高齢者をはじめ介護保険の情報が少ない。もっと学習の機会、情報伝達の努力を。
    福祉用具について:
    介護従事者の腰痛等職業病予防のためにも福祉用具の利用を。
    介護政策を総合的に:
    すべてを介護保険だけでは無理。食はコミュニティレストランの開発を。一人分だけ栄養豊富には無理。買い物、移動、障がいがあっても掃除などできる機器の開発など、テクノロジーを含む社会資源開発による町づくりを。

    詳しくは、別添「介護保険制度の実態と問題点に関する調査〈概要〉」をご覧いただければ幸いです。

以上
NPO法人高齢社会をよくする女性の会 介護保険に関する調査小委員会
理事長
樋口恵子
副理事長
沖藤典子 袖井孝子
理  事
稲葉敬子 木間昭子 濱田利 松村満美子 谷島陽子
運営委員
富井明子 宮崎冴子
2010 年 3 月 29 日
内閣府特命担当大臣(男女共同参画)
   福 島 み ず ほ 様

男女共同参画社会基本計画改定に向けた要望書

NPO法人高齢社会をよくする女性の会
理事長 樋口 恵子
運営委員会一同

男女共同参画社会第3次基本計画の策定にあたり、世界のトップを切って超高齢化の道をすすむ日本社会において、とくに高齢女性の視点から以下を提言致します。女性は男性より7歳近く平均寿命が長く65歳以上人口の6割を占める多数派です。にもかかわらずその声は政策決定に届きにくい状況にあります。本要望書は当会が女性高齢者を多く含む当事者団体として、長年にわたって調査研究交流活動を行ってきた結果を踏まえたものです。

I 高齢女性の貧困防止と生活支援について

 高齢女性の貧困は世界的にも大きな問題として認識されています。我が国においては、性別役割分業意識が他の先進国より強く残り、女性は安定的良好な就労機会に恵まれず、とくに家族の保育・介護のケア役割によってしばしば就労は中断され、賃金、社会保障の上で大きな不利益を受けてきました。生涯にわたる経済的不利益の総決算が女性の老後の貧困です。

 長期的には若い時期からの男女の就労上の格差是正が必須の課題ですが、短期的には、現在の高齢者の経済的自立支援が必要です。一人ぐらし高齢者のうち年収120万円未満は、男性17.3%なのに女性は23.7%。女性単身世帯では年収180万円未満が約半数を占めます。高齢女性の就労希望動機は男性以上に「収入を得る必要がある」が多いのです。

  1. 高齢女性の就労について
    1. 65歳までの継続雇用制度を男女ともに70歳への延長をはかり、その制度から女性が疎外されないよう配慮する。
    2. シルバー人材センター事業での高齢女性の活躍を拡大推進する
    3. 高齢者なればこそのワークシェアリングの仕組みをつくり推進する。
    4. ファミリーサポートセンター、保育ママ制度、一時預かりなどに子育て経験ゆたかな高齢女性の活躍の場(たとえば当会グループ会員でグランマ・サービスを行っている)をひろげ、地域NPOなどの活動を支援する。
    5. 農山漁村における高齢女性の経済活動を支援・推進する。
    6. 高齢女性に就業の場を提供する企業(中小、零細企業を含む)、NPO、起業などを紹介し、とくに好事例については表彰をはじめ何らかの広報をすすめる。
    7. 中高年女性の能力開発のために、教育・研修の科目、方法を開発し社会の需要を喚起する。高齢女性用ハローワーク窓口を設置し、就労斡旋をはかる。
  2. 高齢女性の経済的支援
    1. 税制の基本的見直しにより「103万円の壁」等、性別役割分業に基づく制度を廃止する。その際、制度変更が高齢女性にどのような影響を与えるかについてつねに配慮する。
    2. 低所得者に対して一定基準で低価格の住宅を確保すること。とくに単身高齢女性は持ち家が少なく賃貸住宅居住者が多いことから、契約時の手続き、保証人など円滑な入居へのシステムを確立する。
  3. 福祉と健康、地域生活にかかわる問題
    1. 介護施設利用者の圧倒的多数(老健75%、特養80%)は女性であり、女性のついのすみかとしても施設、集合住宅の整備を推進する。
    2. 現在の高齢女性の運転免許の所持率は男性に比べて低い(70代前半 男性77.4%、女性23.0%)。高齢者全体の交通事故を未然に防ぐためにも、通院、買い物など移動に関するサービスを充実させる。
    3. 介護従事者の約8割は女性であり、現在の賃金等の待遇には旧来の男女格差が影響している。1人前の労働者としての介護従事者の地位向上は、介護の地位向上にも男女の平等にもよい影響を与えるものである。
    4. 高齢女性は男性と比べて要介護になる要因にも違いがある。転倒防止、骨粗鬆症診断など、女性特有の健康保持の方法について配慮する。
    5. 高齢期の健康は、中年期からの連続性を持つ。更年期の健康保持について、企業、地域において男性を含めて理解をすすめること。とくに企業における啓発は、定年まで勤続する女性長期就労者が増えたことからも必要である。
    6. 障がいを持つ女性の職能開発、就労その他の機会が男性と平等であるよう配慮する。
    7. 地域を高齢者の居場所として、徒歩圏内に商店街、医療、介護施設、保育施設、集会施設などがあり、ユニバーサルデザインによる設計、世代間交流、人間関係の保持など、人生100年型のまちづくりを推進する。

II 災害時における女性高齢者への支援

  1. 災害対策本部(国、地方とも)に、女性担当者とくに高齢女性・男性の状況を熟知した担当職員を配置する。
  2. 高齢女性・男性それぞれのニーズに対応できる避難所などの整備運営を心がけること。(たとえば、「高齢社会をよくする女性の会」では、阪神淡路震災時に、化粧品会社の支援を受けて湯上がり用の化粧水を送り届け大変喜ばれた。一例にすぎないが、男性と女性では、また若年者と高齢者では、日用品の種類からして違うのである)

III 高齢女性の社会参画・政治参画と情報アクセスに関して

高齢女性の声を政策に反映させるルートの確立

  1. 高齢者(65歳以上男女)は今や国民の23%、有権者の28%を占めるにもかかわらず、政治家の平均年齢は下降をつづけ大政党では立候補者の年齢制限がある。公務員は60歳定年、諮問機関である各種審議会、ボランティアの中枢と言うべき民生委員においてもおおむね70歳の定年があり、現在の日本の代議制および行政体制は、高齢者の代表性を著しく欠いている。

     さらに女性の比率は、国会議員地方議員とも世界で有数の低さであり、そのため高齢女性は (1)高齢者として(2)女性として、施策決定の場から二重に疎外されている。したがって高齢女性の声を政策に反映させる何らかの措置が必要である。

  2. 要介護者、小規模施設入居者にとって、生涯の権利というべき選挙権が心身機能の衰退と共に行使しにくくなる。一票の権利を確保するために、要介護・要支援者の郵便投票の手続きを簡素化する、個人の投票の秘密保持を厳格化する、等の措置が必要である。「生涯現役一有権者」であるためには、高齢者・障がい者には一定の支援が必要である。
  3. 高齢者の安全に関する情報の確保
    1. 高齢者とくに1人ぐらし女性高齢者がさまざまな犯罪の被害者になりやすいことに配慮し、地域の安全ネットワークを整備する。
    2. 近親のいない高齢者・女性高齢者の生活の自己決定と資産保全のために、使いやすい成年後見的制度を整備し普及する。
    3. 高齢女性はITなど情報機器の利用率が低く、習得の機会や購買の経済力に恵まれていない。情報疎外が起こらぬよう情報伝達の方法を開発すること。とくに近い将来の地デジ対策を立てる必要がある。

IV 国際的動きに関連して

  1. 女性差別撤廃条約のフォローアップ勧告を受けて、民法改正、女性の政治参画、選択議定書の早期批准などをすすめること。高齢者の結婚においては同姓の強制は若い世代以上に不都合な面が少なくないため、そうした視点からも夫婦選択別姓制を推進する。
  2. 国連NGOなどにおいて、高齢者人権条約策定に向けて動きが出ている。当会はとくに女性の視点から参画していくが、政府においても早期成立・批准の方向を推進するよう要望する。
高齢社会をよくする女性の会
男女共同参画社会基本計画改定に向けた
要望書作成小委員会
樋口 恵子(理事長)
沖藤 典子(副理事長)
袖井 孝子(副理事長)
木村 民子(理事)
松村満美子(理事)
宮崎 冴子(運営委員)
以上
2009 年 3 月 31 日
厚生労働大臣
   舛 添 要 一 様

緊急要望書
ここにある老いの命をここで暮らさせてください

NPO法人高齢社会をよくする女性の会
理事長   樋 口 恵 子
副理事長 沖 藤 典 子
  〃   袖 井 孝 子

 今回、群馬県渋川市(静養施設たまゆら)の火災で10人の高齢者が亡くなりました。私たち一同、この事件を深い悲しみと憤りをもって受け止めています。私たちの会員の多くは女性であり、女性の側が年金、持ち家など資産、就労収入など経済的に困難な状況にあることを知っています。したがって今回のような低所得者層の居場所のない状況を黙視することはできません。よって次の政策を実現するよう緊急に要望いたします。

I 要介護高齢者施設と住宅の緊急増設を

 この10年、福祉予算の削減と介護保険による福祉のビジネス化が進みその結果として今回のような低所得者など立場の弱い高齢者にしわ寄せが来ています。この際、長期的な社会福祉政策とは別に、緊急に居場所を必要とする高齢者の生活を支える「救急車」として、以下の政策の実施を求めます。

  1. 小規模多機能居宅介護への助成
  2. 地域密着型の小規模特別養護老人ホームの増設
    私たちは特別養護老人ホームの個室化を求め続けています。
  3. 小中学校の空き教室の積極的利用
    小学校区イコール介護区として人生100年4世代共住の地域の確立をすすめてください。
  4. 中高層の公営住宅、公団住宅(UR=都市再生機構)の活用
    空室が目立つ団地もあります。人が居住する場として作られた団地を改造し個室を確保した高齢者施設に改造することは比較的容易です。地域住民の雇用確保にもつながります。同一都道府県の範囲でこの政策をすすめてください。

II 低所得高齢者対策の立て直しを

 今回の事件でとくに貧しい高齢者が行き場を失っていることが明らかになりました。墨田区だけでなく地価の高い東京をはじめとする大都市から閉め出されています。高齢者が今を生きるその土地で天寿を全うできるよう、少なくとも居住する都道府県で住み続けることを原則としてください。

III 入居者の権利擁護のために有料老人ホームの定義の再確認を

 2006年(平成18年)有料老人ホームの定義が拡大されたにもかかわらず、今回の「たまゆら」のような無届有料老人ホームで事故が続出しています。報道機関(読売新聞3月30日付)によれば、無届有料老人ホームは少なくとも全国で464カ所にのぼり、届出ホーム数の2割に達しています。

  1. 厚生労働省は、老人福祉法改正の趣旨に鑑み「1人でも高齢者が入居しサービスが提供されていれば有料老人ホームであること。また、届出がなくても有料老人ホームに該当すれば老人福祉法に基づく立入検査や改善命令の対象となる」点を都道府県に再確認すること。
  2. 都道府県は責任をもってそれら施設の指導監督に当たること。
  3. 市町村は都道府県と連携して有料老人ホーム等の健全な発展を図るためその実態を把握し、とくに生活保護者の権利擁護につとめること。
  4. 高専賃(高齢者専用賃貸住宅)も有料老人ホームと変わらない運営を行っている場合は、有料老人ホームとしての届出を促し指導監督にあたること。
以上
2007 年 9 月 20 日
厚生労働大臣
   舛 添 要 一 様

介護人材確保のための緊急提言

NPO法人高齢社会をよくする女性の会
理事長   樋 口 恵 子
副理事長 沖 藤 典 子
  〃   袖 井 孝 子

 世界に先駆け超高齢化がすすむわが国において、人生のライフラインである介護保険が、担い手の側から崩壊の危機に瀕しています。

 四半世紀前の結成当初から私たち「高齢社会をよくする女性の会」は、介護の社会化を提唱、当時嫁に一極集中していた介護を、大切なものとして位置付け社会全体で支え合う活動をすすめてきました。介護保険の成立は大きな成果でしたが、介護労働に従事する人たちの労働条件の現状は、まるで介護が「社会の“嫁”」によって担われている感があります。介護者が幸せでなければ、要介護の高齢者が幸せになれるはずがありません。

 私たち女性は介護従事者の8割を占め、家族介護者の4分の3を占め、また要介護者の72%、一人暮らし高齢者の4分の3を占め、介護についてきわめて高い当事者性を持っています。その視点からみて介護従事者の置かれた状況を看過することはできません。

 私たちはこの9月8、9日に開催された第26回全国大会・静岡(約3千人)の全体集会において、本件に関して緊急提言することを満場一致で決議いたしました。

 以下にその要望を記します。

I 介護にかかわる人材確保のための緊急・確実な待遇改善

  1. 介護従事者の賃金に1人月額3万円を上乗せする「3万円法」(仮)の制定
    1. 介護従事者の賃金は平均を下回り、かつ確実な昇給の期待が持てません。人間の生活の最終期を支える労働として報われるところが少な過ぎます。今すぐ介護に働く人々に月額3万円の上乗せができるよう、たとえば「介護人材確保緊急措置法」(仮)(通称3万円法)を時限立法で策定して当面の危機を乗り越え、長期的には介護労働について適切な評価基準を明確に設定し、昇給昇進の見通しを立てる必要があります。
    2. 財源については、本来税金で行なわれてきた地域支援事業費を回すほか、事業経営の効率化などの工夫をし、安易に介護保険料や利用者負担の増加に直結させないよう望みます。
    3. 地域密着型事業所等の事務費の削減と可視化簡素化をめざして、地域全体の事業所事務のネットワーク整備を、厚生労働省の責任で支援・推進してください。
    4. 事業所は経営に関する情報公表をすすめるとともに、介護報酬の一定比率を介護従事者の賃金として確保するよう基準を定め遵守し、公表することを望みます。
  2. 労働基準法等法令を遵守した経営

    介護に従事するすべての労働者に対して、労働基準法はじめ、男女雇用機会均等法、改正パート労働法の法規を経営者は遵守してください。とくに、時間外賃金、深夜業の賃金に関する法令の遵守を求めます。

  3. 年金加入、福利厚生に関する特別の配慮
    1. 介護に従事する非正規労働者に対して、年金制度に緊急な特例を設け、一定限度(週20時間以上)の従事者には就労期間を年金に算入すること。第3号被保険者でなくても、国民年金保険料の免除、半減などの減額を行い、支給時には満額支給するなどの優遇措置を求めます。
    2. 介護従事者の4割が健康に不安を感じています。介護に働く人の健康の保持は、要介護者にとっても必須要件です。正規・非正規を問わず介護従事者の公休による定期的無料健診の確実な実施を求めます。
  4. 研修の代替要員派遣と専門介護職への道

     研修に参加する介護従事者のために、潜在有資格者、ボランティア経験者等による代替要員を確保し、一定の研修は無料とします。

     また意欲ある介護従事者の個性と能力を生かして、要介護者の生活をより豊かに支えるために専門介護従事者への道を開いてください。また介護従事者として出発した有能な人材が、管理職、責任者として活躍する道をひらくよう望みます。介護保険に関連して働く事務・管理部門の職員は、必ず介護現場の体験を持つよう望みます。

II 介護を魅力ある仕事にするために

・・・生きる手応えと向上の喜び、出会いに満ちた職場・・・・

 介護はますます高齢化する21世紀にあって、人間の尊厳を守り個人の生活を支える重要な仕事です。魅力ある職場をつくり、有能な人材が若い世代も中高年も多様なルートで参入できる道を開くことが大切です。私たちの会の調査によれば、現在の要介護者・家族が望む介護者像の一番人気は「保育・介護体験があり、資格技術を習得した中年女性」でした。介護従事者の参入ルートの1つとして、女性の現状を踏まえ次の点を要望します。

  1. 放送大学への介護学科創設

     全国どこに住んでいても、安い学費で充実した授業を受講できるよう、放送大学に「介護学科」を新設してください。すでに看護については設置されています。

  2. 家族介護体験を生かしたプロへの道の確保

     家族の介護看護を理由として職場を離れる人は年間10万人近く、ほぼ9割は女性です。その体験をプロとして生かせるような参入ルートをつくり、研修の機会と情報提供、就労斡旋を行なってください。文部科学省が行なう再チャレンジ支援事業とも提携するよう望みます。

  3. 介護職への奨学金制度の創設

     介護は日本社会を土台で支える仕事でありながら、国費による養成はじめ奨学金制度が不十分です。企業をはじめ広く社会から奨学金を集め(たとえばグリーンリボン奨学金などの名称で)とくに中年女性、途中離職女性などの再チャレンジを支援する奨学金の推進と充実を望みます。

  4. 介護従事者大会の定期開催

     全国、各自治体で、介護従事者による会合を定期的に開き、介護従事者同士が出会い、好事例の発表、情報交換、交流研鑽の場とするよう支援してください。介護従事者を中心として各職種との交流、とくに利用者・家族とのネットワークの場とします。

  5. 介護の日の制定

     介護の重要性を認識する世論形成のため、介護従事者、家族介護者を支援する「介護の日」の制定を求めます。すでにイギリス、オーストラリア、米国などでは公的に定められ、国際的なネットワーク化の動きもあります。高齢化先進国であるわが国は、世界に向けて発信する介護に関する内容をすでに蓄積しています。

 以上のような活動を通して、人生100年社会とも言われる今、人間の一生を支える介護という柱を、社会の豊かさをはかるもう一つの基準軸として確立し、生涯にわたる国民の安心を持続可能とするよう要望します。

2005 年 4 月 26 日
厚生労働大臣
   尾 辻 秀 久 様

平成17年介護保険法改正案に関する意見書

NPO法人高齢社会をよくする女性の会
理事長  樋口恵子
副理事長 沖藤典子/袖井孝子
運営委員会有志
北海道の高齢社会をよくする女性の会
NPO法人あかねグループ(仙台)
郡山高齢社会をよくする女性の会
ながの高齢社会をよくする女性の会
特定非営利活動法人ウィン女性企画(愛知)
高齢社会をよくする女性の会・京都
高齢社会をよくする女性の会/大阪
高齢社会をよくする会ぶどうの会(島根)
魅力ある高齢社会をつくる香川の会
高齢社会をよくする北九州女性の会
くまもと高齢社会をよくする女性の会

 介護保険法の改正案が今、国会で審議中です。施行5年後の抜本的な大改正の審議を、私たちは国民的課題として、自分自身の問題として、深い関心を持って見守っています。

 今回の改正案の第1条に、要介護者の「尊厳の保持」が加えられたことを、私たちは高く評価しています。

 また、地域に根ざしたサービス向上や保険者の権限強化などについても、いくつかの問題は含みながら、概ね妥当と考えています。

 しかし、以下に述べる2つの点に関しては、私たちにとって容易に納得できないところであり、関係各位に、再考・再検討を求めたいと思います。

I 新予防給付への疑問と提案

 これまでの要支援・要介護1を新予防給付と位置付けることに、利用者はもちろん多くの高齢者が不安を持ち、かつ複雑化する制度の理解に苦しんでいます。国は軽度者に対する自立支援・介護の理念とモデルをあらためて明確にし、財政上の問題とともに国民に提示する必要があります。

 新予防給付のような、制度の根幹にかかわる大改正は、介護保険導入時のように、広く国民的論議を起こし、利用者・国民の声を聞き、その理解と納得を求めるべきです。

 そこで以下を提案します。

  1. 現行の要支援・要介護1の既認定者については、向う3年間、現行の制度による認定とサービスを継続する。あるいはあくまでも利用者本人の意思による選択制とすること。
  2. 新しく新予防給付によって認定される高齢者に関しては、利用者の生活の崩壊を防ぎ、生活の質を保持するために、必要な家事援助サービスをも提供すること。
  3. 上記1と2は、向う3年間の実績を検証し、国民に公表し、利用者・国民に納得がいく次回の見直し資料に供すること。
  4. 新予防給付(筋力トレーニング、栄養改善、口腔ケア)に取り組む基本は、何よりも本人の意欲である。上記サービス利用に関して高齢者の多様な生き方を認め、本人の意思と選択を尊重すること。

II 地域支援事業に関連して

 介護保険事業が地域に広がり、介護保険を通して地域構築の展望が見えてきたことは喜ばしいと思います。

 また、今回改正の焦点となる「介護予防」の必要性について異論はありません。しかし、介護予防は幼少期から長期的に、要支援・要介護となる以前から行なうことこそ必要であり有効なのではありませんか。

 要介護となることは、基本的に本人の過誤ではなく、まして悪ではありません。要介護は人間の老化の正常な一過程で、だれもが出合う可能性があります。

 ですから私たちは、長寿社会における個人と家族と社会の必需品「介護」について、負担と給付の関係および相互扶助が明確な社会保険制度を選びました。

 国民の介護ニーズに応えてつくられた介護保険の給付は、最大限介護を必要とする利用者に、還元すべきと考えます。

 以上のような認識に立つとき、予防重視型地域支援事業に関して以下を要望いたします。

  1. 介護予防事業の中で「要支援・要介護になるおそれの高い者」のスクリーニングに関しては、その基準と内容を公表し、高齢者の分断につながらぬよう配慮すること。「おそれの高い者」と認定されなくても、希望者には一定の条件でサービスを提供すること。
  2. 介護予防の地域支援事業の財源に介護保険料を投入しないこと。財政が苦しいから改正するというのに、ここで「事業費」を保険料から計上すれば、ますます財政は逼迫し、最重度の要介護者等に向けての給付が減少する。保険料は利用者個人への還元を原則とすること。

おわりに

 介護保険施行5年、介護保険は概ね期待された効果を上げ、円滑に運営されているのは喜ばしいことです。家族に集中していた介護が軽減され、市場化された介護サービスは社会を活性化していますが、一方で新たな課題が生じています。

 私たち「高齢社会をよくする女性の会」は、地域ボランティア、各分野の専門家などで構成されていますが、多くの会員は高齢者あるいは家族の立場にあり、私たちはあくまでも高齢者・利用者の視点から発言しています。

 介護保険がもっていた「選択」と「自己決定」と「参画」というよろこび、自立支援という介護の新しい定義がもたらした厚生労働行政への国民の信頼を、今回の改正で失うことのないよう、私たちは望んでいます。

 行政には支配に対する抑制を、事業者には公共の分野で営業する際に必要な高い倫理性を、利用者もまた社会保険制度で支え合っている認識と節度を持して、国民共有の財産である介護保険制度を持続可能な社会資源として、本格的超高齢社会に残すことを願って止みません。

以上
2004年 5月12日
厚生労働大臣
   坂口 力 様

高齢者虐待ゼロ社会をめざす提言
― 高齢者虐待ゼロ作戦 ―

高齢社会をよくする女性の会
代表 樋口 恵子
運営委員会 一同

 介護保険法施行によって、今まで見えにくかった高齢者の実態が明らかになり、新たな政策的対応を要する課題が出現しています。

 その中でも最も緊急を要する課題は、高齢者に対する虐待防止策だと私たちは考えます。人間の生涯を通して、どの段階においても理不尽で暴力的な虐待は許されません。とくに長い人生の最終段階で、これまで持っていたさまざまな力が衰えていく時期に、頼りにする家族や介護者から虐待されることは、痛切の極みであり、この社会にあってはならないことです。近年、児童虐待防止法、夫婦間暴力を防止するDV法が制定されましたが、高齢者への暴力・虐待の防止は法の盲点となっています。

 私たち「高齢社会をよくする女性の会」は、先行調査も乏しかった1997年「在宅介護調査」の中に「虐待」を設問し、介護者が介護ストレスから虐待に至る経緯を知りました。また、介護保険法施行前から東京都の駆け込み寺(当時)の事例を収集・分析した当会理事によって、要介護ではない高齢者が家族から受ける虐待の内容が明らかになっています。

 このほど厚生労働省では初めて全国的な高齢者虐待調査に取り組み、新しい知見が発表され、今後の施策に多くの示唆を与えています。私たちはこのところ3回の公開勉強会を開き、当会のメンバーである介護家族、高齢者本人など当事者、医療ソーシャルワーカー、ケアマネージャーなど高齢者の福祉・医療の専門家、弁護士と共に、多くの事例を含め討論をすすめてきました。高齢者虐待の一端が明らかになり関心が高まっている今こそ、法的整備を含め、高齢者虐待ゼロ作戦というべき新しい施策を展開して下さいますよう、当会として要望し、提言いたします。

高齢者虐待ゼロ作戦・五つの基本的ポイント

1. 虐待防止の立法化により「高齢者への虐待は犯罪」を明言

 虐待は人間の尊厳を犯す犯罪であることを国として宣言するために「高齢者虐待防止法」(仮称)を策定し、高齢者虐待は犯罪であることを明記する。その際、何が高齢者に対する虐待であるか、専門家・関係者のみならず国民すべてに理解できるようその定義を明示し、全国民に周知徹底啓発をはかる。

2. 被害者への迅速な保護と救済、そして加害者への対応

 高齢者虐待は、加害者と被害者が親密な関係にあり、虐待という認識が双方に欠ける場合が少なくない。また現在までの人間関係の歪みや介護ストレスから生じる虐待もある。被害者の救済を第一にはかるのはもちろんだが、加害者もまた認識を深めるために、現状を改善するカウンセリング等が必要である。被害・加害双方に対して必要なケアが行われない限り、虐待の悪循環は止まらない。

3. 高齢期の特性に応じた保護救済施策・施設

 虐待は犯罪であるという認識が国民に広がり、周囲から虐待の事実が所管行政機関に通報されたとしても、避難場所をはじめ有効な救済策が取られない限り、問題再発の可能性が高い。とくに高齢者は、若いDV被害者と違って技術の習得などによる就業・自立への可能性が乏しい。高齢の被害者には、高齢期の特性を踏まえた施策と施設が求められる。

 東京都においては、世田谷区と昭島市の二カ所に高齢者緊急相談センター(いわゆる高齢者駆け込み寺)が開設されていた。1994年から1998年の5年間の調査では、健常な高齢者250人が、虐待を受けて駆け込んできた。現在多くのニーズがさらに顕在化しているにもかかわらず、廃止されたことは誠に遺憾である。これも国の準拠法規がなかったことが理由の1つであり、早急に国による立法措置を要望するものである。

4. 被害者が置かれている多様な生活の場への配慮

 虐待の危機にさらされる高齢者は、在宅の要介護者ばかりではない。高齢者介護施設・グループホームなどにあっても、密室化した場合や職員の認識が低い場合は、弱者である高齢者に対してさまざまな虐待が起こり得る。また、現状では、健常で自立した高齢者であっても、相対的に力関係が弱くなる中で、家族などによる虐待を受ける危険性がある。したがって、施設か自宅か、自立か要介護かなどの違いに着目した、きめ細かな対応が必要である。

5. 女性高齢者への適切かつ長期的対策

 高齢者虐待の被害者は男女を問わず存在し、高齢者虐待全国調査(厚生労働省)によれば、加害者の32.1%は息子であった。被害者・加害者双方の立場から見て、男女両性の問題であることは明らかである。とはいえ、「調査」によれば被害者は76.2%と圧倒的に女性である。施設入居者も7〜8割が女性である。これまで女性が置かれてきた家族内外の地位や力関係からみて、女性はとくに虐待の被害者になりやすい状況にあることを考慮し、女性の人権を守る視点からの、適切かつ長期的対策が求められる。

高齢者虐待ゼロ作戦への具体的戦略

高齢者虐待防止法(仮称)を制定し、さらにその上で以下のような分野で、総合的かつ強力な具体策の展開が求められる。

1. 国に望むこと


<法律に明記すべきこと>
  1. 虐待は犯罪になり得ること
  2. 虐待の定義と一般への啓発
  3. 保健・医療・福祉等専門機関の通報義務
  4. 気づいた住民の通報義務と通報者のプライバシー保護
  5. 高齢者虐待防止センターの設置による通報先の一元化と即時・具体的対応
  6. 被害者救済にかかわる警察、裁判所、医療・福祉機関、消費者相談機関等の役割分担と、たらい回しにしない責任ある体制の整備
  7. 緊急一時保護施設の整備(自治体ごとの施設整備)
  8. 高齢者の状況に即した保護命令
  9. 公的支援による高齢者向き中長期的住まいの確保
  10. 十分な教育を受けた専門職員の配置と関連職員等への研修
<国の施策に望むこと>
  1. 虐待防止の視点からも介護保険の一層の充実をはかる
  2. 成年後見制度を高齢者に分かりやすく利用しやすいものに改善する
  3. 低所得低資産の高齢者にとっても利用しやすい貯蓄等の安全を支える制度
  4. 地域福祉権利擁護事業の拡充等を行なう
  5. 人生の最終段階において、安全な資産・年金・金品管理と、本人にとって最も望ましい介護の選択は、重要なポイントである。それらを支えるために「人生ラストステージの伴走者」というべき専門性と社会性をもったボランティアを全国で養成する。
  6. 高齢者虐待の実態は、国による全国調査など急速に明らかになっているが、さらに要介護以外の高齢者をも対象とした大規模調査を行ない、全体像を明らかにする必要がある。

2. 地方自治体の施策に望むこと

  1. 高齢者の精神・身体・経済・社会的特性を踏まえた相談事業を行う。
  2. 虐待を受けている高齢者のための緊急保護施設を整備する。
  3. 高齢期の特性に応じた中長期的住居の確保。
  4. 虐待とは何か、相談マニュアルを分かりやすいパンフレットに作成し、地方行機関、コンビニなどに配布する。インターネットも用いてPRする。
  5. 虐待110番を常設する。
  6. 何でも相談しやすい「よろず相談所」、24時間365日いつでも利用できる地域センターを設置する。
  7. 介護者をはじめ高齢者の家族が孤立しないよう、地域ごとにつどいの場をつくる。当事者グループの立ち上げを支援する。
  8. 小旅行、レスバイトケアへの対応をはじめ、介護者・同居家族に対する社会的支援のメッセージを送り続ける。
  9. 虐待を予防するために、介護家族・同居家族の悩みごと相談所を常時開設する。
  10. 以上のような活動を行なう地域のNPO等を支援し連携する。

3. 医療・介護関連施設、介護保険事業者に向けて

  1. 介護関連職員に対する虐待防止マニュアルをつくり、虐待ゼロ施設・事業者をめざす研修の徹底。
  2. 職員はじめ関係者の通告義務と通告者の保護。
  3. 介護保険事業者の情報開示に際しては、虐待防止策の項目を置く。
  4. オンブズマンなど第三者による虐待防止についての評価基準の設定と奨励。
  5. 高齢者の立場から発言・苦情が言える第三者を親族以外に特定できるようにする。
  6. 入居者が施設外に出て、できるだけ多くの地域住民に接触できるよう、逆デイサービス等を推進する。
  7. ボランティアの受け入れを積極的に行なう。

4. 高齢者と国民一人ひとりに望むこと

  1. 高齢者自身、家族や介護者などの理不尽な仕打ちに対して、「ノー」と言える意識を育てる。高齢者は尊厳を保って生きる権利があり、世間体や世話になっているから仕方がないと諦めてはいけない。
  2. 高齢者が尊厳を保って元気に生きる権利について、学校教育、生涯学習やメディ アを通して、高齢者自身も国民一人ひとりも理解を深める。
  3. すべての国民が常日頃から家族相互において相手を尊重し、良好な人間関係を構築することの重要性を認識する。

第三回 国際家族介護会議
(International Conference on Family Care)報告

<2002年10月12日〜14日 於ワシントン郊外のクリスタルシティ>

 2002年10月12日から14日まで、ワシントン郊外のクリスタルシティで第三回国際家族介護会議が開催された。この会議は、介護を家族の責務とする考えから介護の社会化という転換に向かう中で第一回の会議が1998年にロンドンで開催された。会議は隔年ごとに行なわれ、第二回目の会議がオーストラリアのブリスベンで開催された。当会では第一回より参加し日本の高齢者問題への取り組みをアピールしてきた。今回は、井上/白井の両運営委員が出席した。9.11から1年を過ぎた今もアメリカの緊張は強くワシントンに着くまでに四回もセキュリティチェックを受け、うち二回は靴の中まで調べるという徹底ぶりに1994年のカイロ会議を思い出した。

 会議は世界中から700名以上の人が参加し高齢者、障害者、児童の問題と幅広く話会われた。全体会では世界の8地域の代表が基調報告をしたが、日本からは東京都立大学の小林良二教授が日本の介護保険について報告した。

発表する井上由美子運営委員
発表する井上由美子運営委員

 当会の井上由美子運営委員は高齢者介護のワークショップで日本の介護保険における家事介護とジエンダーの問題について発表した。ここでは、国際長寿センターの工藤さんがホットラインから見た介護問題を、Npo法人ひと.まち社の池田さんが介護保険に関する調査報告をした。南米やアフリカなど世界各地からの参加者から多くの質問があり日本の介護保険への期待の高さを感じさせられた。

聴衆
聴衆

 アメリカの参加者たちからは、アメリカでは国家、州、地方自治体と役割が別れており福祉サービスは州や自治体の役割だが施策もばらばらで統一的なものがない。アメリカ人は自主独立を信条としており、自分のお金があるうちは自費で払うという意識が強く介護に関する民間企業も発達している。ただ、費用が高いために利用できない層も多い。そのため、ボランティアの活動などでもカバーしている。手持ち金が無くなるとメディケアなどにより援助を受けるが量も質も十分ではないという発言があった。日本では生活保護に対するスティグマが強いが、アメリカでは当然の権利と考えられている。

 各地区の介護者協議会などでは、州や自治体による介護施策のレベルアップのために働きかけている。また、この会を運営した全国介護者協議会や全米退職者協会などの団体も、国の施策に反映させるようにロビー活動をおこなっている。

日本からの参加者
日本からの参加者

 政府の新しい動きとして、医療保険とソーシャルサービスの統合が検討されており、国家公務員の医療保険に介護が組み込まれることが決まったというが、医療保険自体が民間企業が担っている国なので全国民にということではない。帰路に立ち寄ったニューヨークで、旅行会社を経営する友人と話をしたが、経営が厳しくなったために保険会社の変更を雇用者に提案しているという。

 アメリカでは民間保険会社と契約を結んでおり保険料も医療内様も千差万別だ。そしてその内容が労働条件になっている。経営者も雇用者もその内容についてシビアに受け止めている。結局予防して元気でいることが金をかけずにすむと言う訳で、健康志向が強い。色々なことを考えさせられたアメリカだった。

白井千賀子 記

第二回世界高齢化会議に参加しました

<2002年4月8日〜12日 inマドリッド、スペイン>
詳しくは「マドリッド会議のすべて」がわかる報告会

ごあいさつ

樋口恵子
高連協ツアーの面
高連協ツアーの面々

 行ってきました。私たちのマドリッド。高齢社会をよくする女性の会一行13名は、高齢社会NGO連携協議会(略称/高連協)傘下のツアーに入り、朝日、読売の記者とともに総勢28人のグループで高齢社会に関する世界会議のNGOフォーラムに参加しました。男性陣は、さわやか福祉財団理事長・堀田力さんをはじめ少壮精鋭。いつもの女性ばかりのツアーとは一味違う幅の広い活動ができました。

 その最たるものが新聞など(朝日5/3、神奈川新聞4/29、読売4/16、静岡新聞 5/13)で報じられたとおり、マドリッドへ着いてから思い立ち、「アジアでの経験を分かち合うために」と題し、70人の会場満杯のワークショップ(アルバムはこちら)を実現してしまったことです。アジアでのネットワークづくりの新しい第一歩が刻まれたと言っても過言ではありません。

 当会のメンバーは準備に、チラシづくりに、参加者獲得に力を尽くし、当日は名司会の冨安兆子さん、抜群の集客能力の吉武輝子さんをはじめ、東北勢から関西、近畿、九州まで、全員参加でワークショップを盛り上げました。

NGOフォーラム全体会議
NGOフォーラム全体会議
高連協主催の分科会
高連協主催のワークショップ
(中央は司会の大役・
我が会会員・富安兆子さん)

 さて、私、樋口恵子ですが、当会の活躍のおかげで、AARPラウンドテーブル、OWN(Organization of Women's Network)のワークショップの二つからパネリストとして話すよう依頼を受けました。英語の苦手な私に、その上、降って湧いたというか、自ら求めたというか、自前のアジア向けワークショップと、3回も出番を得て、苦しく、かつ嬉しいことでした。これからも否応なく、外国との交流が広がります。しかし、それも国内でみなさんの力によるわが「高齢社会をよくする女性の会」の地域での活動が積み重なってこそ、社会的・国際的発言につながるのです。

 今回のご報告は日頃、国内の地域でのみなさまの活動をまとめたものです。

 フォーラムの中でいちばん大きな集会はAARP(アメリカ退職者連盟)会長のテス・カンジャ(女性)さんの司会で行なわれた「女性の高齢者が変革の力としてどんな役割を果たしたか」をテーマとする円卓会議でした。私は当会の活動に的を絞ってお話ししました。

変革をもたらす人としての高齢女性
高齢化に関する世界NGOフォーラム

2002年4月6日土曜日
スペイン・マドリッド
英文はこちら
司会
  • AARP会長テス・カンジャ
パネリスト
  • 樋口 恵子(日本):高齢社会をよくする女性の会
  • ニジョリ・アルバシアウスキーネ(リトアニア):
    カウナス高齢女性活動センター会長
  • ヘルプ・エイジ・インタナショナル(アフリカ地域代表)
AARPラウンドテーブル
AARPラウンドテーブル
パネリストはそれぞれの地域の下記諸点を紹介し、質疑応答が続いた。
  • 介護者としての高齢女性
  • ボランティアとしての高齢女性
  • 社会の発展に対する高齢女性の貢献

 生活上のストレスとうまく立ち向かうことが年を重ねていく上で重要なことである。この分科会の目的は、高齢女性が自分たちの生活の向上のため、家族や近隣社会の生活向上のため変革の行為者として活躍するいろいろな場面を探ることである。

パネル討議での樋口恵子代表の発表内容

 AARPの円卓会議でお話しできて大変光栄に存じます。私は大学でジェンダー問題と家族関係について教えています。

 このフォーラムには高齢社会をよくする女性の会の代表として、私たちの会の紹介をいたします。この会は20年前、ウィーンで世界高齢者会議が開かれた年に創設されました。会員は60代の後半の人を主体に、20代から80代に幅広い層にわたっています。

 今回は13人のグループで参加しました。大学教授、社会福祉と医療の専門家、作家、ジャーナリスト、政治家、ボランティア団体のリーダーがメンバーです。

 現在、会のメンバーは個人会員が1500人、団体会員が150団体です。会は全国各地で活動する個人・団体会員をむすぶ連絡協議体です。

 まず、会の設立の経緯についてお話しします。
1970年に65歳以上の人口が全人口の7%を越え、1994年には14%、2000年には17%を越えました。65歳以上が20%を越えるのは世界でも日本が一番早いと見られています。人口構造の変化で伝統的な家族意識も変化しています。その一方で、70年代に女性一人あたりの出生率が2を割り、女性は伸びた寿命をどのように過ごすか新しい生き方を探し始めていました。

 ところが、70年代当時は社会全体としては保守的で、老親の世話は家族がするのが当たり前と考えられていました。1978年の厚生白書では、高齢者の同居率は子ども(長男)の家族と同居が大半で、介護が必要になると嫁がその任にあたっていることを示し、政府としても、「同居率の高さは福祉予算の含み資産である」(予算配分をしなくてすむ)とまで言い切っていたくらいです。

 1980年代になって、高齢人口が増加し、社会的問題となると、地方自治体の中には「介護優良家族表彰」するところが増え、「孝行嫁さん顕彰条例」までつくるところもありました。

 つぎに会の活動について何点か説明します。一つは高齢者介護についてです。

スピーチする樋口代表
スピーチする樋口代表

 高齢化社会は女性の生活に大きな影響を与えます。現在、家族介護者の85%、職業ヘルパーの90%は女性が担っています。このため、嫁にあたる女性を中心に退職を迫られ、人生の大幅な設計変更をする女性が少なくありません。年間10万人以上が介護を理由に退職しますが、このうち男性は1万人前後です。「親の面倒をみるのは女性(嫁)の仕事」と社会も家族もみていて、この問題の重要性を見逃してきました。そこで、会では、介護を高齢化社会の新しい問題であるととらえ直し、人口構造が変化した現在、家族のみでは高齢者にとっても人として尊厳を保てる介護を受けられないこと、社会的に家族と高齢者を支援する介護をシステムを創設するよう提案してきました。

 その基礎として、それまでのマクロな視点からの行政機関の調査ではともすればこぼれ落ちるジェンダーに敏感な視点から調査研究を進めています。その結果をもとに政府・社会にむかって発言することにしたのです。

 会は1987年と1997年に家族介護の実態を調査しました。全国の会員が家族介護者に聞き取り調査をしました。その結果、「介護地獄」とさえ言える現状が明らかになりました。その中で介護にあたっている女性が自分自身の健康を損ねている問題、世間体や夫の賛同が得られずに外部サービスの利用ができない実態が浮かび上がってきました。

 この調査結果をもとに、私たちは政府審議会をはじめ関係省庁に繰り返し訴え、1997年にやっと公的介護保険法成立の一方の推進役を果たしました。

 「高齢者介護の社会化をもとめる1万人市民集会」を堀田力弁護士・さわやか福祉財団理事長と共同議長として開催しました。この集会には労働組合、専門家、福祉ワーカーその他、関心をもつ人たちが参加しました。

 もう一つの活動は中高年女性の健康問題です。1994年のカイロでの国連人口開発会議でリプロダクティブ・ヘルスとライツ(生殖器官の健康、受胎・産児に関する自己裁量権)という概念が打ち出され、これに応じて、会として女性の生涯にわたる健康の保持・増進を支援する政策を提言しました。

 中高年女性の健康について調査を実施しました。その一つに主婦、勤労女性、農村部の女性とわけて更年期症状の調査があります。この調査結果を日本、中国、韓国で比較検討しました。更年期症状調査では、夫婦関係の問題ならびに夫婦関係への舅・姑への介護の影響が浮き彫りされました。

 もう一つ、調査したのは80代以上の元気な女性の健康の実態についてです。

 三つめの調査は、病気とジェンダーです。女性(主婦)が病気になったときの家族の反応と医療機関の対応について調べたものです。

 これから扱おうとしているのは、高齢者虐待の問題です。介護を受けている高齢者に対する虐待が深刻であることが明らかになったので、この実態について調査することになっています。

 以上のような調査の結果は、全国大会その他の会合の場で報告し、マスコミでも報告を扱ってもらいます。

 会の重要な目標として、国・地方の政府の政策決定過程への参画の促進があります。福祉政策は中央政府が決め、市町村が実施します。地方分権一括法と介護保険法が2000年4月に施行され、地方自治体の責任と権限がいっそう広がりました。

 会は、国はもちろん地方自治体ならびに政治的決定過程への女性の参加を推進しようと力を注いできました。会では全国の地方議会の女性議員を対象に調査し、高齢者福祉についての考えを聞き、介護保険事業計画の女性委員の比率などを調査しました。また「女性議員の勉強会」を開催し、福祉に強い女性議員の増加につとめてきました。

 つぎにネットワークづくりについてご紹介します。私たちは地方自治体と共催で持ち回りで全国大会を開催して、いろいろな組織とのネットワークづくりをしています。全国大会で提起された内容を大手出版社から単校本にまとめて市販します。昨年12月には、「女性と健康ネットワーク」との共催でシンポジウムを開催しました。ここでは専門家が「働く女性の健康」「更年期の健康」「高齢期の健康」の分科会に分かれて検討しました。この集会には20代から80代の200人が参加し、「健康な高齢女性は社会の資源である」という結論に達しました。

 最後に地方のグループの活動について二、三、ご紹介します。一つは北九州にある会員千人を越える大きな団体の活動です。この団体では、若い母親むけの育児サポート、高齢者むけには介護保険ではカバーされない食事配達とホームヘルプ・サービスを実施しています。現在、介護サービス業者についての情報公開を推進しています。

 大阪のグループでは施行2年度の介護保険を利用者、家族、介護機関、職業介護者、女性地方議会議員のそれぞれの立場からの検討をしています。法的その他の問題を検討しますが、このために評価表を作成し、大阪府の各市町村で調査し、結果を政府に提出することにしています。

 最後に、日本の実態についてお話します。政府は2001年に人口予測を改訂し、現在の低出生率と寿命の伸びがこのまま続くと、2050年までに65歳以上の人口が37.4%になると発表しました。現在の倍ということです。その頃の寿命は女性が89歳、男性で80歳になっていると予測しています。その時には、65歳以上の女性は総人口の22%、つまり5人に一人ということになります。いずれにせよ、高齢女性が経済的に豊かなのか貧乏なのか、自立して生活できるのかどうか、健康かどうかなど、日本の社会に大きな影響を与えることになります。現状でも働く女性の40%はパートタイム労働者で、彼女たちの所得は男性の所得の40%にすぎません。また社会保障を受ける資格はありません。現在の年金制度では、妻は夫に扶養されていると考えられています。離婚したり、職業を変えたりすると、年金受給資格を失う女性も出てきます。昨年になって、政府は女性のライフスタイルの変化に合わせて年金制度を改定することを決めました。私たちの会では創設当初から、男女平等で女性の貢献を勘案した年金制度を主張してきました。この制度改定の委員会の議長となったのは当会の創立メンバーの一人です。

 財政赤字に悩む政府ではありますが、高齢化と出生率低下の進展を前に、政府は女性の声に耳を傾け始めました。私たちは男性を巻き込みつつ、国内外の関係者と協力して、来たり来る高齢社会を個々の人が基本的人権を享受してよりよい生活をおくれる、より公平な社会にするように努力していきます。

(写真提供/社団法人エイジング総合研究センター)
2001 年 11 月 26 日
厚生労働大臣
   坂口 力 様

<緊急提言>
厚生労働大臣への意見書
「安心の国づくり・その基礎としての医療改革」

NPO法人高齢社会をよくする女性の会
代表  樋 口 恵 子

安心の国づくり・その基礎としての医療改革へ
(医療保険制度に関する意見書)

 私ども「高齢社会をよくする女性の会」では、今回の「医療制度改革試案」(厚生労働省)について、会員内部での意見募集を行なったところ、全国から84通の詳細な回答が寄せられました。それらの意見および運営委員会で討論した内容を踏まえ、ここに以下のように要望いたします。

I 今回の「改革」について

 財政上の問題が起こるたびの手直しでは、改革の名に値しません。

 このたびの「改革」は、取りやすいところから取るという、患者・高齢者の「一方三両損」の感があります。

 もちろん少子高齢化という人口構造の大変化に対応した制度改革をすすめ、高齢者を含めた自己負担や保険範囲を見直すことは必要です。それは、医療サービスの価格と質、提供側の体制などを問い直すことと同時に行われる必要があります。また、国民の生命と健康を守る政府・行政が、どのような公的責任を果たすかも問われます。

 今回の「改革」が医療サービスの質の向上や情報公開を具体的に約束していないこと、過剰な投薬、重複検査など医療のムダづかいを是正する抜本的な改革に直接結びつかないことを残念に思います。そしてこの不況期に、若いサラリーマンや高齢者、慢性病患者などの窓口負担増を思うとき、今後この方向でよいのかという疑問を禁じ得ません。

 「持続可能」の意味を、せめて10年単位で捉え、今後引き続き少子高齢社会の実態に見あった根本的な制度改革に向けて、安心の国づくりの基礎としての医療制度改革にただちに着手することを要望します。

 医療は国民の生命の安全保障であり、適切な医療は年齢にかかわりなく、すべての国民の人権であり、基本的なセーフティネットです。医療制度の歪みは、国民の貧富の格差を拡大し、貧困層の増大につながりかねません。

 今回の「改革」論議には、前回(97年)以上に国民が不安と共に関心を高めています。

 それは、日本の国民皆保険制度への支持と期待に裏付けられています。会員の中には「負担増やむなし」という意見もかなりありました。これも「皆保険」維持という願いのあらわれであり、国民皆保険という誇るべき制度を前提に真の「改革」に取り組むことを要望します。

II 制度改革に向けて論点と要望

  1. 政府に望むこと
    • 保険制度の整理と統合
      一本化に向けてせめて高齢者と一般の二本建てに。被用者保険の使用者負担分の徴収方法は別に考えられないか
    • 高齢者は多病で当然。子どもは病気をしながら育つ。若人世代からの「拠出金」のあり方を再検討
    • 人口予測に基づいた長期的制度の試案を複数提示し、国民に論議と選択を求める
    • サービス内容と支払基金に関する第三者審査機関設置と審査専門家の養成
    • 高齢者医療制度を創設するならば「高齢者総合診療科」の設置を。高齢者の同時多病という特徴に即した真の「老人医療」を。あらゆる大学医学部に「高齢医療」講座と開業医研修など、医師養成制度の改革を
    • 病院はじめ医療施設を選ぶ第三者情報提供機関の創設
    • 医療の質を監視するオンブズマン制度の支援
    • レセプトのIT化の実現
    • 保険手続きの省力化・合理化
    • 予防のため高齢者が集う場所、とくに運動やスポーツをすすめる場所と方法の提供
    • 低所得者対策として、現行制度と別立ての医療費単独補助制度
    • 高齢者の中でも、男女の所得(年金)格差に留意。一人暮らし高齢者の8割は女性
  2. 医療提供側に望むこと
    • 医療過誤を防ぐ実効ある措置
    • カルテ開示はもちろん、個人情報として医療データの一本化により、医療のムダを省く。医療データは本人のものではないか
    • 過剰な投薬と重複検査は再三指摘されながら顕著な改善が見られない
    • 診療報酬の適正化。引き下げを望む声は多い
    • 患者とくに高齢者とコミュニケーションのできる医師の養成、ジェンダーに配慮した対応
    • 適正医療の自己評価システムの確立と第三者評価の導入
    • 地域医療を担う家庭医の確保と質の向上、ネットワークの整備、往診の充実
    • 医療施設の地域適正配置
    • 高齢者医療の研究開発・実践の推進
    • ホスピス医療のさらなる普及、終末期医療への対応
  3. 高齢者自身について
    • すぐに医療に頼らず、自分の健康は自分で守る自立の精神を養うために、高齢者も健康に関する学習と実践を(ほとんど全員が指摘)
    • 薬好き・検査好きの傾向を改める。公的保険の仕組みを知り、負担と給付の関係を自覚する
    • 中・高所得の高齢者負担増は受け入れざるを得ない
    • 高齢者の予防対策はよいが、あまり「健康寿命」を強調することは優生思想につながらないか。要介護者・障害者がのびやかに自分自身として生きられるように